Q太の思い出句集   2004年】

  句会にも参加して、俳句を習い始めた。少しは俳句らしくなってきたかな。

【1月】
    鉄塔に全し初日生駒山     

       湯の花をたっぷりと入れ初湯かな

     西に延ぶレールの焦げて冬茜

      香の未だし梅のほのかな紅なりし

  獅子窟寺山中一輪寒つばき     


【2月】

       湖北から白鳥北へ帰るべし
 


    次の角曲がれば白梅匂ふやも
  梅の香の空の青きに吸ひ込まる     

     磨崖仏むかしの朱に春の風

       ◎ 日向ぼこ猫目瞑りてソクラテス


【3月】

   春暁の始まる闇の蒼き色

            自転車で土手を斜めの青き踏む

                 テープから般若心経春の昼
     咲き競ひ白木蓮天を目指すなり

   道半分を白蓮の散り乱れ    


【4月】

      湖凪ぎて舟閉じ込めし花筏

          花びらを重ね段通靴を脱ぐ

  ◎ 豆の花蔓に括りし藁匂ふ    


        あの犬も春愁なりや今日吠えず   

       三輪車春の光を駆け行けり

            鳥帰り水尾なき池に石を投ぐ


【5月】
   鯉のぼり自由形にて泳ぎをり    

     シャクナゲの低きあたりの国境  

 アーチ橋隠してしまふ新樹かな    

    義仲寺の黒きはせをの持つ扇  

  翁塚椎の新樹の陰に立ち    

  白日傘びわ湖ホールのテラスから 



   山青し玉露の茶摘み菰の中    


【6月】

   自転車を漕ぎて桜の実を奪ふ

       代掻きの棚田の一つ色違ひ

             植ゑ終へて田を見る親子千曲川

                   立葵虫垂直に移動せり

  乙女らはひょいと茅の輪をくぐりけり   


【7月】

    梅雨明の飛行機雲の消えてなし

        月の夜は太き蚯蚓の動き出す

            建前の槌音消えし夏の空

                寝転びて雲とたはぶる青田中

                   枇杷の実を枇杷の闇よりもぎとりぬ

 オホーツク海いっぱいに夕焼けて    


【8月】

    草刈機北の大地を駆け巡る 

     石狩の天空映す芋の露

         ◎ 爪切草兵士の墓の小さかり 

               新しき下駄鳴らしゆき遠花火

                     新涼や漆黒の夜の大樹揺れ


【9月】

   ◎ 天領の檜の上の鰯雲 

         月祭る琵琶湖の奥の隠里

              黄金の月出でやがて主となる

                 月光を全反射する新瓦

                    刈り込みし垣根小枝に月明り


【10月】

      星月夜平家の谷のうすあかり

         サイロへと花野を走る獣あり

            マネキンの顔の案山子に見返らる

                風のまままだらに焦げる刈田かな

                    秋天の余白へジェット機飛び来たり

  伊吹にも琵琶湖の奥にも曼珠沙華    


 朝寒の犬に噛まれし小指の血    小鉄に噛まれて、3針縫った。


【11月】

                   ◎ 小春日の抜糸の肉の快楽かな


     小豆干す筵の上の丸き影

        茶の花や渡来の人の住みし丘 

                ほの赤き灯つきぬ冬隣 

    参道にポン菓子の音花八つ手   

    土壁に小春の鴟尾の影の濃し  

 散もみぢ古代住居の土間飾る  


【12月】

  金婚日大根おろしの卓揺るる 

      後輪に轢かるる鼠冬至の日 

          咳ひとつ欲しい空間途切れをり 

             猫の声はたまた嬰か虎落笛 

  冬の虹鉄塔ひとつ邪魔しをる  

       理髪屋の座布団の上冬帽子 

    窯出しの窯のぬくもり年の暮