Q太の思い出句集 【2005年】
【1月】
◎ 初詣楠の葉音に見下ろさる
初鏡隅に白猫映りをり
比良の雪舞ひきてエリの中に落つ
競り人の放てる息や氷見の鰤
腸の空なる山の眠りかな
大寒の恐竜の石黒光り (草食恐竜の胃石の化石)
初空に飛ばしたしこの吉みくじ
茶筅竹干しをる田圃凧揚がる
【2月】
連凧の綱彎曲し空を引く
◎ 葦焼の炎大河を渡り来ん
「まわり道」と太き文字ある余寒かな
さざ波に草萌の色移りをり
春寒の一本欠けし犬矢来
連翹の花の奥から鋸の音
永き日や髑髏の上の土の塊
田起しの土の断面雨流る
【3月】
◎ 野火を見し雉の眼の鋭き光
水温む古代遺跡の柱穴
水管橋ペンキ塗りたて陽炎へり
蓮鉢の中の水澄み大田螺
釉薬を掛けてやらふか春の雪
渦潮に吸はれし酸素海を染む
海峡に玉筋魚の船ひしめきて
【4月】
バス停にパン焼く匂ひ春時雨
◎ 葬りの音くぐもれり春の雲
春昼のすこし傾く鳥居額
湖面までさくら延びきて乱反射
(日本詩歌句協会・関西さくら俳句大会4・)
満開の桜の水に足浸す
水底に日影のありて蝌蚪遊ぶ
廃線の駅の真ん前さくら満つ
春昼やラジオのニュース喋り出す
【5月】
マンモスの目を見詰めゐて夏に入る
◎ 極彩の夏の曼荼羅万華鏡
◎ 鯉のぼり初めは皺のよりしまま
京伏見亀趺の凹みの五月闇
筋肉を張りて飛び立つ鴉の子
桑の実を包んできたる薄き紙
新参の幟一本空を占む
【6月】
あぢさゐや成層圏の空青し
低気圧らっきょと砂糖売られをり
◎ 真夜中の種まで赤き山桜桃
怪態な眼鏡を掛けて夏の陣
赤紫蘇の赤あほくさく呑み干せり
塗り下駄のからりとゆけり心太
山車のごと路地帰りくるトラクター
−−−−−
落ち合ふは理学部前の時計草
マシュマロの踏んだり蹴ったり柿青し
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【7月】
◎ 赤きもの銜へし鴉まつり酒
会葬を終へし女に韮の花
尾を立てて夏毛の犬のすまし顔
濃き影の迫りて過ぎぬ鬼やんま
土を焼く炎翳りて星まつり
雨しずかブラックホールの星祭
門前のアメリカ芙蓉おほきすぎ
【8月】
旧港の起重機廻り大西日
海峡に潮の満ちきて盆の月
新涼や松ぽっくりと犬の糞
信長が城うめつくせ法師蝉
秋高しガム噛む犬の犬歯かな
栗の毬刺さりし空の痛かりし
【9月】
◎ 二百十日少年柵をけとばしぬ
いなびかり黒毛の犬とすれ違ふ
芋虫は眉と睫毛を剃りたるか
鰯雲農夫の持てる鍬長し
秋の水偏光レンズ直進す
天高し鎌の刃先の食ひ込みて
【10月】
◎ 天袋開いてをりぬ冬支度
越前の岬の芒ほの青し
雨音の金木犀にやさしかり
秋の夜の備前の壺の重さかな
秋夕日大河を染めて渡りくる
天井の曲がりしパイプ秋の雨
【11月】
遊郭の角の風呂屋の残り菊
筆太の税の文書や冬はじめ
◎ 小春日や魔術の種の見えさうな
鍵穴に合ふ鍵のなし小春空
くらわんか茶碗の欠ら冬の鵙
冬の海いるかの耳の骨硬し
【12月】
冬はじめ見返り阿弥陀の右側に