Q太の思い出句集    【2010年】


【1月】

     印肉の滴るごとき初日かな

         ◎ 北吹きて歪に沈む望の月
                氏神のつぎは恵方の天神さん 

      葉牡丹やわが世ちょこっと端っこに

           四日の夜酒とへしこと茶漬けかな
                 銅の戸樋まぶしく光り寒に入る  

        出初式大河の水の虹立ちぬ

            ◎ どんどの焔空手の蹴りのその先に  

                 冬ぬくし昼間回数券買へり

        ◎ 耕しの形デフォルメ霜強し

             密室の水仙の蕊知らんぷり

                   レントゲン技師のいふまま日脚伸ぶ

         蒼穹に朴の冬芽の屹立す

              連凧の揺るるその下子ら走る

                    明るさや冬芽のすべて天を指し


【2月】

      風花のまぶしき中の堰の音

          ざーんげざんげ六根清浄冴返る

              寒明ける地酒「大寒搾り」かな




            何代か続く醫者なり海苔の艶

              爛々と雉子の眼の野火猛る 

                いきなりのトロンボーンや春の闇

              人形の頭目ン玉雪解水   

         春障子みそ屋の桶の大きかり

          migawari_sample_photo.jpg つちふるや身代り申の吊るされて

          いかのぼり都城の跡の広場かな  


【3月】

    貝寄風や半身の鯛の骨浮かぶ

        おぼろ夜の車軸の油汚れかな

            春雷や少し動きし闇の青

      白桃のつぼみは確と見遁され

          分け前は三つづつなり雛干菓子

              連翹の密林のごと咲きにけり


【4月】

    島影にかすんでをりぬ橋の索

       囀りのたけだけしきは何鳥ぞ

          風紋に遊びし頃の遅日かな

      白く飛ぶ凪ぎし湖面の初つばめ

         あさり汁浅蜊に潜む小蝦かな
           春まつり輿丁の潜む御供所かな  


【5月】

     葉桜の口縄坂をのぼりけり

       比良よりの伏流水の浜は夏

          仕事着に着替へし鮨屋夏つばめ

      万緑や宝石箱の蓋あける

         袋掛されぬ実のあり雲流る


【6月】

     潮水に囲はれボート前進す

        地の蜜柑まろき蕾の匂ひけり

            投網師とならぶ小鷺や蘆茂る

      神おはす若楓なり磴のぼる

         密やかに蜜柑の花の山暮れぬ

             乱鶯は茶碗を洗ふ音の中


【7月】

      路地裏の端から端まで水を打つ

         雲の峯地球の裏は真暗かも

             一面の紫蘇畑あり暮れんとす

       野いちごの錆びたる赤や兵の墓     


          魚拓師の墨濃くしたる茅渟の鰭

              暴れ梅雨大河の面の叩かれて

        片陰の模様は軒の瓦なり


【8月】

      細長き葉つぱの揺れの涼しさよ

         夕立の大粒二つそれつきり

             しかしまあ元気すぎるぞ油蝉

      平穏に明日切らるべしこのメロン

          月曜にいつも満開ハイビスカス

              どう見てもB型ならむ鶏頭花


【9月】

     コンパスのがにまたのあし夜の秋

         家中の時計を合はす厄日かな

             萩の葉に小さき水玉ならびゐて

      噛みて歯に青く拡がる林檎かな

          伊勢姫の寺の山萩濃かりけり   

(吟行会3句)

     穂谷てふ一升瓶と秋桜  

         越屋根に跨つてみん鰯雲

             コスモスや吉井幸子とさつちやんと

 (コンクール応募作6句)

     蓴舟真白き雲に棹さして

          いろは赤大きさは中バラ盛る

               塗り立ての千本鳥居ところてん

           鍵盤の左手迅し春一番

                 空腹の魚の泳ぐ空は秋


【10月】

     饂飩屋の狐うどんと温め酒

         木曾谷の山気吸ひたる夜這星

             三室戸に手を振り合うてかまど馬

      盃はちよつと小さめ土瓶蒸

          新しき縄を巻きたり秋祭

              山崎のモルトの小瓶蘆の花 
 12年