Q太の思い出句集    【2011年】




     

         ◎ 北吹きて歪に沈む望の月
  
【1月】

     空風に首曝しつつ硫黄泉
           下北や大ふくろふの大あくび    掛川花鳥園 コキンメフクロウ

【2月】

      心地よき冷たさなれば髪を切る

            銃眼のやうな窓あり日脚のぶ

               早春の鷺は純白かなしまず

                  昃りてなほまるまると氷魚の眼
【3月】

       野火火の粉葦の形をのこしゐて

          種袋振りてその音を楽しめり

             いかなごの十数年の記憶かな

               春光や余る力で大地蹴る

【4月】

       アテルイの国のさくらも蕾む頃

          雲丹割くや愁ひのいろは黄色かと

          春眠のふりして起きず起こされず

【5月】

          大手毬小手毬咲きて赤信号

          祭あと一人で歩くをとこかな

             いきなりの人の眩しく鉄線花


         (5ヶ月休む)


【10月】

       馬肥ゆる紙飛行機は墜落す

          ピスタチオその殻固し十三夜

        釘を打つ男の頬や鰯雲

           碧空の隅つこ端つこ鵙鳴きぬ

             羽黒山鼻緒の白と朱ならぶ

              向日葵の種は叩きてとらるべし

                 カンナ咲く野良着の泥の乾きゐて

          秋簾真中磨り減る裏梯子

【11月】

       割箸のぎゆうぎゆう詰めに紅葉狩

        天高く商売繁盛天丼屋

           秋天のててかむいわし買ひにけり

         ウイスキー、ジンにウオッカ山眠る

            神前で般若心経神の留守

               黒釉の中は毒かも秋の暮

          長調に転調すべし蓮根掘る

                山眠る通奏低音響かせて

【12月】

      一片の錦の枯葉舞はんとす

         大柚子の微動だにせずぶら下がり

            肉球は毛に覆はれて冬至かな

       神頼み仏頼みや白障子

             いつぞやの人に出会へり十二月

              小さきはコロコロカラと枯葉かな