大雪の近江八幡・水郷


1997年2月下旬の土曜日、目が覚めると雪が積もっていた。近頃まれな大雪である。


朝食をとりながら考えた。雪の水郷もいいのでは? 
近江八幡観光協会に電話を入れると、水郷巡りの舟は中止であるが、バスは動いているとのこと。チャンスだ。

京都駅12時発の快速で近江八幡に向かう。JR琵琶湖線は草津あたりから一面真っ白の雪景色であった。
近江富士もシルバーグレイだ。雪の野洲川も情緒がある。
そのうち雪が止んだ。
沿線の住宅ではスコップを持ちマイカーの屋根の雪かきをしている人などが見えた。
近江八幡駅で降りると吹雪いていた。
長命寺行きのバスに乗り、豊年橋で下車。八幡堀入り口近くの「水郷巡り和船乗り場」の屋根つき待合所を借り切ることにする。

ベンチの上に載せてファルト(SG-1)を組み立てていると、雪の中を観光和船が1隻、一組の客を乗せて水郷巡りから帰ってきた。
エンジン付きの舟なので自分だけが出たとのこと。
こんな突風の日に大丈夫かいなと言いながら、船頭さんは我がカヌーを触ったり持ち上げてみたり、パドルを握ったりして感心していた。

組上がったSG-1を下に降ろし、雪の上を滑らせて引っ張り川に浮かべた。14時半、出艇。
雪の葭原はなかなか風情があった。


帽子を脱いで葭の大龍神様に舟上から両手を合わせた。

雪の水郷景色を満喫して、西の湖から琵琶湖に向かった。

西の湖と琵琶湖との水位差を保つ閘門は、全開状態で完全に上げられていて青信号が点っていた。
牡丹雪を浴びながら長命寺港沖を16時半に通過。

マイアミ浜の岬を回り込んで琵琶湖大橋に向かう。
追い風に乗って吹雪く湖面を快調にパドリング。
前方にエリあり。比較的縦棒の間隔が狭いところを選び、強行突破を図る。しまった!

艇がエリの縦棒と擦れないかと気をとられてパドルを横にしたままだった。
艇は進むがパドルは残る。こりゃ大変。
吹雪く琵琶湖の日暮れ時、パドルがないとチトやばい。

全速後退、両手で懸命にバック漕ぎ。
スターン(艇尾)がエリの水面上の浮き具に乗り上げ、あと2、3センチのところで、エリの向こう側に張り付いているパドルに手が届かない。
艇を横向きにして手で漕ぎ寄せ、エリにつかまり、ようやくパドルを回収。
後から考えるとエリでパドルを手放してよかった。手を放さず「沈」していたら大変だ。
手が凍えて感覚が麻痺していたのが幸いしたようだ。
(この日の彦根の最高気温は1.4度。夕暮れ時の吹雪く湖面は零度を切っていたと思われる。)

18時半、琵琶湖大橋北東のリゾートホテルの砂浜に無事着艇。
積雪30cm。ホテルに着き、毛糸の帽子をとると凍っていた。
部屋に入りまず、冷え切った凍傷寸前の手をぬるま湯に10分以上漬けてから、大浴場に向かった。

翌朝、雪の浜辺の赤いカヌーは雪比良をバックに一段と映えて見えた。
快晴のもと、早緑の山肌をきれいに雪化粧した比良山脈を愛でながら、雄大な雪見ツアーを楽しんだ。
和迩の岬の公園を独占して休憩、チキンラーメンを食う。
焼酎入りの紅茶がうまかった。

蓬莱で上がり、湖西線に乗る。
雪の蓬莱山に夕日が照り、眩しかった。





            西の湖に 葭の大龍神のおはしける

              蘆原の湖面を走る 牡丹雪

                残り鴨 羽ばたき飛べる 牡丹雪

             山肌に早緑見えし 比良暮色

               冬琵琶湖 帽子が凍るパドリング

                 冬湖のエリに捕られし パドルかな