南紀ショート絵巻 巻4    周参見だけ

              ー Q太郎4号艇の初漕ぎ ー



2002年4月下旬のこと。それまでの週間予報では悪かった明日の天気がよくなっている。
それならばと、急遽準備し、周参見に向かった。(カメラを忘れたので味気ないがご勘弁下さい。)
クラブ・ザ・ファルト6月例会(周参見〜串本・テント1泊ツアー)の月当番としての下見なのだ。

JR天王寺駅8時01分発周参見駅10時28分着、約2時間半(190km)。
あれー、周参見の砂浜が無くなっている。階段状に海面まで降りる親水護岸とかいう工事が終盤の段階だった。
まあ、これでもカヌーには問題ないが、自然のままがイイのにな。

工事中のビーチを避けて、北側の周参見川河口に架かる道路橋の下(いい日陰になっている)で艇を組み立て始めた。
Q太郎4号艇・フジタPE−480の試し漕ぎ、処女航海なので、特に念入りに組み立てた。

周参見の湾の沖合にある小さな岩(島)に白い波しぶきが高く上がっている。風が強そうだ。
8ヶ月振りの海が何故か少し怖く見える。
あまり気乗りのしない出艇となった。こんなの初めてだ。(結果的には、最初から負けていたのだ。)

帰ってくる漁船何隻かとすれ違いながら湾を出て、南東に向かう。小さな磯島の間を縫って、波を避けながら岸沿いに進む。
向かい風が強く遅々として進まない。少し焦る。
やっとのことで5kmほど漕ぎ進んで、口和深の湾に入った。和深川河口近くの砂浜に着艇。何にもないトコロだ。
ここはあまり手頃なテントサイトはない。それに車の騒音はゴメンだ。
マップでは近くには適当な浜辺は無さそうだが、ともかくちょっとだけ行ってみよう。

和深崎を越えて大島との間の磯を慎重に漕ぐ。
なんとか艇を着けられそうなトコが1ヶ所ある。でも磯のまっただ中だ。
三ッ石を越えて先に進むが、着艇できそうなトコロはない。引っ返して先ほどの磯に向かう。
無事着艇。

磯の径1mほどの石が凸凹するトコで艇を引っ張り上げる。我慢しろ、少々手荒いが、これが俺のやり方だ。
念のため5mほどの舫綱を岩に留める。

百尺ほどの断崖を背にテントを張る。
潮岬灯台のテレフォンサービス(07356−2−6177)で、潮岬の状況を聞こうとするが、docomo携帯は通じない。
(絶壁の上には灯台があり、鉄筋コンクリートの建物が何棟か見えていたので、電波は通じると思ったのだが。)
家にも電話ができない。また女房に叱られるなと覚悟する。

憑いていない日だ。ガス・ストーブの調子が何故か悪く、使えない。
沖を行く船が心配しないように、小さな焚き火を燃やす。
天空全体が薄雲に覆われてきた。先ほどまで雲間に見えていた上弦の月も見えなくなった。星も一つも見えない。
焼酎を自棄気味にラッパ飲みする。
10年近く前に買った缶詰の乾パンが役に立った。氷砂糖が入っているのもよい。また買おうっと。

翌朝。
石の上に乗っかっている艇の向きが変だ。前後入れ替わっている。
近づくと、舫が外れている。
潮の差を計算して1m上まで揚げたはずだが、揚がっていなかったのか、あるいは波にさらわれたのかも。
基本的なチョンボだ。反省!

幸いなことに、向きは変われど艇は昨日のようにちゃんと石の上にある。
舫綱は、プラスティックのフック付きのものが便利そうなので、今回初めて使いグラブループに引っ掛けていた。
可哀想に波に弄ばれて、このフックが外れたのだ。(今はフックを引っ掛けてからループにくくりつけている。)
相当擦られたようだ。右舷エアーチューブまで破れている。

波は治まってはいないが、準備を整え、無事、出艇。まずは、真南にある三ッ石方向に漕ぐ。
水が少し入ってくる。電動ビルジポンプを回すと排水できるが、止めるとまた浸水する。スイッチを入れたまま航行。

結果的には、この電動ビルジポンプがなければ航行不可能だったのだ!
その威力に改めて感謝し、ますます海ファルトの必需品との認識を高めた。

コンディションがよくないので、昨日のスタート地点に引き返すことに決めた。

口和深の湾内には磯の小島(岩)が数多く点在していることをマップをよく見て知った。
こんなところはすぐに通り過ぎると思ってちゃんと見ていなかった。反省すること多し。




【後日談】

・ ツアーの1日後(翌日)昼過ぎに艇が宅配便で帰宅。まず、お風呂の湯船に漬けて塩抜き。
  4m弱のベランダのひさし両端に付けてあるファルト干し用フックにバウとスターンのグラブループに通したロープをくくりつけて、乾かす。
  いい天気で助かった。その日の夕方、宅配便に出す。
・ 次の日(ツアーの2日後)の午前、フジタカヌー研究所に着く。 待ちかまえていたフジタカヌーの若社長・藤田亮氏によって修理された。
  その日の晩に宅配便の営業所へ持ち込まれる。(亮さん、大感謝です。ありがとうございました。)   
・ その翌日(ツアーの3日後)午前、大修理を終えたPE−480が帰ってきた。
・ 翌々日からのTO−BEさんとの若狭湾・常神半島ツアーに間に合い、この時にシャンパンで進水式を挙行。

なお今回のPE−480の損傷具合は、
 ・ 船体布の破損多し。現地では辛うじてつながっていたが、帰宅後の塩抜き等で、ぱっくり30cmほどの切り傷もできた。
 ・ エアーチューブ片方破損。
 ・ 骨組みパイプに1ヶ所大きな擦り傷。(現在もそのまま使用中)
 ・ パイプのジョイント部1ヶ所破損。
あまりの大破に、心配された藤田亮氏から修理完了後、「いったいどうしたのですか?」と確認の電話あり。
恥ずかしながらことの顛末を申し述べた。